平成17年度厚生労働省老人保健健康増進等事業 地域特性に応じた訪問看護ステーションの機能・役割に関する検討 研究事業

主任研究者 村嶋幸代 東京大学大学院教授

 1. 目的 

地域特性のうち、人口過疎地(以下、へき地)の訪問看護ステーション(以下、ST)が果たしている役割・機能、および、ST運営上の困難と、
STを成立させていくための工夫や支援体制などについて調査し、へき地の人々に訪問看護サービスを提供するためのSTのあり方について示唆を得ることを目的として、
STの分布調査、ヒアリング調査を行った。
また、平成18年度の介護報酬改定により、STが地域の他機関(特別養護老人ホーム、グループホーム、特定施設入居者生活介護等)と連携した場合の報酬が設定された。
今後、地域特性に応じたSTのあり方への示唆を得るため、この介護報酬改定に伴うSTのビジネスモデルのあり方を検討した。

 2. 方法と結果 

  1. 訪問看護ステーションの分布調査
    全国の訪問看護ステーションの所在地データをWAMネットから抽出し、その住所と郵便番号データによって得られる位置情報を地図にマッピングした。
    一部の県に関しては、STの訪問エリアや、周辺の医療機関、介護保険事業所、施設等を表示したところ、
    へき地でサービスを提供するSTの訪問エリアが広範囲に渡ることが明らかになった。
    また、訪問看護ステーションやその地域資源は、都市部や主要道路付近に集中する傾向があることもわかった。
    へき地で交通網も十分に整備されていない地域には、訪問看護ステーションばかりでなく、医療機関や他の介護保険サービス事業所・施設も不足しているという状況にあり、
    そのような地域で暮らす人々をどう支えていくかが課題と考えられる。
  2. ヒアリング調査
    離島型へき地、山間地型へき地、豪雪地型へき地、広大地型へき地の類型を参考に、
    9都道府県を選出し、それぞれへき地に該当する地区に存在するSTを2~3ヶ所、任意に抽出し、目的に沿ってヒアリング調査を行った。
    また、その地区を管轄する保健所または保健センター(あるいは隣接する地区の保健所・保健センター)にも協力を依頼した。
    ヒアリングの結果、以下の点が明らかになった。


      1. へき地におけるSTの困難点
        へき地では、自然条件が厳しいことや、スタッフの数が少ないことにより、「利用者が必要なときに利用できる保証」がないという状況がみられた。
        また、厳しい自然環境は、「看護師の労働環境」にも影響を与えていた。
        加えて、地域の中で看護師免許を持っている人材自体が少ないため「訪問看護師の確保」も困難であった。
        また、勤務体制に余裕がないこと、地理的条件から往復に時間がかかることから、研修に参加できる機会が少なく、「ケアの質の確保」も困難であった。
        さらに、訪問看護の役割やメリットが理解されにくく、医師との連携が難しいなどの「他職種との連携」の困難もあった。
        またこのことは、地域の人口が少ないこと、低所得や世間体の問題などとあいまって、「訪問看護利用者の確保」の困難も引き起こしていた。
        利用者確保が難しい現状は、すなわち訪問収入が少ないことを意味し、「経営を成り立たせること」自体が難しい現状であった。
      2. へき地におけるSTの工夫
        関係機関との連携や住民との信頼関係を構築し、STへの理解を促していた。
        また、口コミも重要なPR方法であるため、日々のケアの質の向上にも力を入れていた。
        そのため、厳しい労働条件や環境にあっても、研修への参加や勉強会の開催を積極的に行うよう努力していた。
      3. STを支えるもの
        行政は、市町村の建物内に事務所を家賃や光熱費を無料で提供することや、利用者の交通費の一部を負担すること等を支援していた。
        行政保健師は、利用者や看護職の発掘・紹介や、訪問看護の利用促進に向けた普及・啓発等の支援を行っていた。
        また、経営母体は、へき地のSTの赤字を補填する仕組みや、スタッフの研修参加への支援を、教育機関や看護協会等は、研修会や勉強会の支援や経営的なアドバイスを行っていた。
      4. 訪問看護を提供できていない地域の存在が明らかになった。
        距離や自然環境的な問題から訪問できない地域がやむを得ず発生していた。
        訪問看護師はその地域の存在を気にかけており、訪問できていない地域は、訪問看護可能な地域と比較すると、
        要介護者や家族の状況が変化することで、即座に施設利用に至るケースが多い印象を持っていた。
      5. へき地は医療機関が少ないため、医療的な判断や処置においては、STの役割は大きかった。
        へき地におけるSTは、その地域の在宅療養の継続やターミナルケアを支える上で不可欠な存在となっていた。
        また、STからの訪問があることによって、病院から帰宅できると共に、通院やお見舞いに伴う困難を軽減し得ていた。
      6. まとめ
        へき地は医療資源やケア資源が少なく、訪問看護は医療的な判断や在宅療養の継続に大きな役割を担っていた。
        へき地のSTは経営面やケアの質の保証等に様々な困難を抱え、工夫しながらサービスの提供を行っていた。
        一方、現在、訪問看護が提供できていない地域も存在することが明らかになった。
        誰もが訪問看護を利用できるよう、へき地でもSTが無理なく成立・維持できる仕組みづくりが必要であり、STの経営に関わる制度の改善が必要だと考えられた。

図表ⅰ へき地におけるSTの特徴

  1. ビジネスモデルの検討
    STの管理者を対象に、平成18年度介護報酬改定におけるSTに係る改定内容についての説明、及び今後の訪問看護ビジネスモデルの検討を、SWOT分析の手法に従い、
    グループワーク形式(参加者30名弱、1グループ6名程度)で2回実施した。
    これまで在宅療養者の「訪問」に特化してサービスを行ってきたことから、地域のグループホームや特別養護老人ホーム、特定施設入居者生活介護等についての情報を保有しておらず、
    訪問看護ステーションの近隣にどのような施設があるのか、どのような利用者が入所しているのかなどの情報が必要といった意見も多く出された。
    今後、地域の他施設との情報交換を行い、施設側のニーズと訪問看護ステーション側の対応体制・方法等を具体的に検討していく必要があると考えられる。
    今回の介護報酬改定では、中重度者への支援強化が基本的な視点の一つとして掲げられ、
    この中で、訪問看護ステーションは「居宅」だけでなく、地域において施設等との連携機能を果たすことが求められるようになる。
    このような新しいサービス提供に向けて、訪問看護ステーション側が積極的に対応することが必要であり、現状の体制・機能にとどまることなく、柔軟に検討していくことが望まれる。